左官の真行草

左官の真行草

左官の真行草 (原田宗亮)

 

今回は左官においての真・行・草についてです。

真・行・草(しん・ぎょう・そう)とは元々、書道の書体の種類を表す言葉だそうです。
その考え方が書道だけでなく、華道や茶道・庭園・俳諧・絵画などの表現にも広がり、
茶道から茶室へ、建築様式にも用いられるようになった美意識の表現の一つです。

こういった分野はもっと詳しい方がいらっしゃるとは思いますが、
原田左官なりの解釈で左官においての真・行・草をお伝えしたいと思います。

書道の世界では「楷書(真に当たるもの)・行書・草書」というように3種類の書き方があります。
楷書=真は字の本来の形のものを指します。 その対極で最も崩したものが、
草書=草、中間のものが行書=行になります。

これは日本人にとって他の様々なものの考え方・美意識の元になっているようです。
私たち日本人の感覚として「まず本来のものを見る、知る、真似をする」そこから
「少し変える、くずす、アレンジする」そして余計なものをそぎ落とし思い切って
「簡素化する、別のものにする」という美意識を根底に持っているようです。

日本に書道を伝えた元祖である中国では「真」がもっとも正統で格式が高く価値があるものとされていて、
「行」や「草」はそれに次ぐものとされているようです。
それが日本では独自の発展をして「真」「行」「草」がそれぞれ同等の価値がある、
もしくは「侘び・寂び」の世界のように「草」そこがもっとも成熟した価値があるものだという考え方になりました。

茶道の世界では道具や挨拶・おじぎから「真」「行」「草」の違いがあるそうです。
「真」の道具は神仏や高貴な人へ奉げるときに使用する道具、
「行」は少しくずした陶磁器など、
「草」は土や竹・木などをそのまま活かした素朴な道具となります。
そこから座敷や茶室のしつらえにも影響され、「真」「行」「草」それぞれの格に合わせた空間にします。

左官のことへ話を移すと、
座敷を作るときに土壁を用いることはその時点で「行」や「草」のものになります。
「真」では漆喰や大津壁など仕上げを施しますが、
土壁をそのまま仕上げとするということは「行」や「草」を意味します。
その土壁の中でもそれぞれ「真」「行」「草」の格式を整えています。

言葉で説明すると「行の真」「行の行」「行の草」のように表現をします。(草も同じく)
座敷がピシッとした角柱で竹の角窓になっていれば、
「行の真」なので聚楽土の水捏仕上げにし、窓枠もピン角に仕上げます。

素朴な杉の丸柱でヨシの丸窓であれば「行の草」もしくは「草の草」の表現なので、
引き摺り仕上げや大きなスサを見せて素朴な土壁仕上げにします。

9月に竹中大工道具館 東京展において
久住章さんの土壁における「真」「行」「草」の展示がありましたので、こちらをご覧下さい。






角柱に聚楽の水捏仕上げ。窓は和紙で補強し、正確な角を出す。







面側付の丸柱に対し、土壁切り替えし仕上げ(または中塗り仕舞い)。窓枠はやや丸みを帯びさせる。







杉の丸柱に赤錆土の引き摺り仕上げ。丸窓の枠はフリーハンドで仕上げている。

このように土壁だけでなく、それを仕上げる鏝道具においても「真」「行」「草」の表現があります。

その考え方をちょっと強引ではありますが、現代の左官にも置き換えることが出来ます。
壁は本来、主役ではなくあくまでも脇役。建物や室内の格に合わせて壁を選ぶ必要があります。
その考え方を表にするとこんな感じになります。


(あくまで私案ですのでご了承下さい)

久住章さんの言葉をお借りすれば、まずは「真」「行」「草」それぞれの格を体現できるように努力する。
それが出来るようになり、初めて格を破るようなことを目指すことが出来る。
それはつまり「破格」のものである。ということでした。

こういった考え方を元に左官の仕上げをチョイスしてもおもしろいかもしれません。
考え方として3つというのも日本人が好む考え方ですね。
「真」「行」「草」そして「破格」
原田左官も「破格」の表現が出来るようにこれからも日々、努力していきます。


参考文献:
・竹中大工道具館東京企画展the SAKAN継承と革新 冊子
・コトバンク「真行草」
・茶の湯 こころと美
http://www.omotesenke.jp/list6/list6-2/list6-2-3/
・真行草の茶


最後までお読みいただきありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。

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