強みを生かして新商品も。3K職場で女性が力を発揮
女性の左官職人が元気に働く会社がある------男社会の左官業界で評判となっているのが原田左官工業所(東京都文京区)だ。同社では積極的に女性を採用、その力は新商品の開発などで遺憾なく発揮されている。

男女に限らず、壁を平らにする技術を身につけるには最低10年はかかると言われている。
熟練の技を身につけるに、力仕事もいとわず日夜、左官の仕事に打ち込んでいる
環境の変化が女性参入を後押し
「危険、きつい、汚い」。いわゆる3Kのイメージが強い左官の作業現場。男社会の典型と見なされがちだが、店舗の内装工事を主にする原田左官工業所はその逆を行く。同社では20年以上前から女性を左官職人として積極的に採用している。
左官の仕事は、壁を塗るだけではなく、材料をこねるだけでも力を要した。その為体力に勝る男性でなくては厳しい世界だった。
同社の原田宗亮社長は「昔は壁を綺麗に塗るだけではなく、重い材料を運んだりこねたりする事も左官職人の誇りと考える向きがあった」と話す。とはいえ、近年は材料が軽くなり、こねやすいものが増えた。そして、職人の高齢化もある。ここに女性の職人が増える素地がある。
今でこそ女性が活躍する同社でも、当初から左官職人として育てようと考えていたわけではない。きっかけとなったのは事務担当社員の「私も現場に出て左官の仕事がやりたい」という一言だった。
こう志願した社員の実家は工務店。左官の仕事は知らない世界ではない。だが男ばかりの現場で女性が容易に戦力になるとは想像できなかった。それでも原田氏の父(当時社長)は「本人が望んでいることだから」と、半ば軽い気持ちで見習いに抜擢した。1989年の事だった。

「色に関する知識を生かした左官職人に育って欲しい」。
そう語る原田社長と美大出身の左官職人2人
女性の感性が新商品を生む
コテを握るにも数年かかる----その頃は、まだ昔ながらの徒弟制度が残っていた。85年に施工された男女雇用機会均等法の影響で、「女性の社会進出」は一般的になりつつあったが、そこは職人の世界。左官職人になろうとする彼女に対し、先輩職人の抵抗は少なからずあったようだ。原田氏はこう振り返る。
「女性というだけで目立つ。だから少しでも作業に手間取ると『だから女はダメなんだ』と辛辣な言葉が飛ぶ。認めてもらえるよう、仕事後に壁塗りの練習をする彼女の姿を何度も見た」
見よう見真似で壁塗りの練習をするものの、なかなか平らに塗れない。左官の技術を身につけるには最低10年かかると言われている。なるべく手数をかけずにすばやく平らにする。その技術を身につけるには経験を積むしかない。
なかなか平らにならない技術不足を補うために、彼女は模様を入れてみた。さらに口紅やアイシャドーを材料に加え色を入れた。
うまくいかない悔しさから生まれたこの作業が新たな可能性を生む。これを同社の学生アルバイトが「面白い」と新商品の漆喰として企画書を作成。サンプルつきで建築設計事務所へ配ると、大きな反響を呼んだ。
カラフルな漆喰「フルーフレ」は一気に広まった。折しも、海外から新たな材料が紹介されており、「オリジナリティの高い壁を求める傾向が強まりつつあった」(原田氏)。この流れが追い風となり、新商品の発売を通じ、同社に寄せられる依頼は増加の一途を辿った。
制度導入で将来の救世主に
女性が持ち味を発揮すれば業績アップにつながる。そんな手応えを感じた原田左官工業所では以後、積極的に女性を採用、売上を大きく伸ばした。
女性の戦力化に成功した同社だが、一時は15人もいた女性の職人が減少した時期がある。原因は結婚・出産である。
左官の仕事は定時に終わるとは限らない。作業終了まで帰れないケースも珍しくない。こうした事情が仕事と育児との両立を難しくしていたのだ。
出産後も仕事を続けたいという女性の職人の声を受け、同社では産休や育児休業制度を導入した。現在6人の女性職人のうち2名はこの制度を利用しているという。
同社はこれからも女性の活躍を促すつもりだ。その背景には高齢化がある。業界では今後10年で職人の4割が引退すると言われ、大きな問題となっている。「10年後も同じように仕事をするには、若い女性に活躍してもらわなければ」と原田氏は危機感にも似た気持ちを持っている。そうしなければ、「仕事が雑になり〝左官の仕事は省いてしまえばいい〟という流れにつながりかねない」(原田氏)。
確かに体力だけで考えれば男性優位の世界ではある。だが女性らしい視点で商品開発をすれば、それは業績に直結する。そして原田氏は違う視点でも考えている。
「粘り強さという点で女性は優れいている。先入観で判断せず、女性の強みが生かせる仕事をしてもらえば、男社会の業界でも活躍の場は増やせる」(原田氏)。
新商品を生み出した自社社員への誇りは揺るがない。原田左官工業所では、これからも女性の職人を意欲的に育てていく。
野宮未葵氏
左官暦:3年10ヶ月
(平成23年2月現在)
実家を建て替えた時に、壁を塗る職人の姿に感動して、この仕事を選びました。仕事は厳しいのですが、やっているうちに楽しくなるもの。私達の仕事を通じて、「左官は女性にとっても楽しい仕事」と発信していきたいですね。
有村かおり氏
左官暦:1年
(平成23年2月現在)
大学に求人票が出ていて、興味があって見学した事がきっかけで入社しました。最初は何をやっていいかわからず戸惑いの連続でした。まだ技術不足で頭に思い描く通りに塗れない事が多いのですが、女性の先輩に学べる事が励みになっています。
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