女性ならでは感性を活かして、左官職人に挑戦中!
左官職人(壁塗りや床のタイル貼りなどを手がける人)といえば、どうしても男性の世界と思いがち。でも、二十年ほど前から女性左官職人は活躍していたのです。女性ならではの視点を生かしたその仕事ぶりは、時として男性職人をも上回るそう。でも、工事現場って男性ばかりだし、力仕事もあるし、女性にとってかなりキツイ仕事だと思います。今回取材した原田左官工業所では、4年目までは見習い、5年目以降は職人と呼ばれるようになるそうです。そのような左官職人の世界で働く、女性の左官チーム「ハラダサカンレディース」のNさん、Tさん、Mさんの3人に、左官の魅力や生きがいなどを伺ってみました。
━━━皆さんはどのようなきっかけでこの仕事を選んだのでしょうか?
Nさん「高校三年生の頃、家のリフォームをしたとき、女性の左官屋さんがいて、とってもカッコよかったんです。その後、美大に進学してガラス工芸を学んでいたんですが、いざ就職する時にその記憶が蘇ってしまって。それで左官屋をやってみようと思いました。ただ、女性を雇ってくれるところが少なくて、ようやく原田左官で雇ってもらえました」
Tさん「短大を出て、会社勤めをしていました。風景が好きで、まちの写真を撮っているうちに、建物に目がいくようになったんです。建物の壁は、町の表情を作っている大きな要素だなと。それで、左官という職業があるのを知って、自分の目標みたいなものが見えたんです。まず、左官の技術を学ぼうと職業訓練校に入学したところ、原田左官の社長(現会長)が講師としてきていました。卒業して職人としてやっていけるか心配でしたが、原田社長、先生と相談して、とにかくこの世界に飛び込んでみました」
Mさん「前職は旅行雑誌の編集をしていました。本が好きでこの仕事を選んだのですが、手や身体を動かす仕事がしたくて。たまたま原田左官のホームページを見て、女性の左官職人に興味を持ったんです。まずはアルバイトとして、この仕事を始めたのがきっかけですね」

漆喰の美術コンテストでも準優勝したNさん。
どんな職人、アーティストになるか楽しみです。
━━━現場に入ったときの印象や、苦労したところをお聞かせください
Nさん「力がないので、重いものが多くてつらかった。今は慣れちゃいましたけど。へとへとに疲れて、家に帰ったら倒れてすぐに寝ちゃう毎日でした。あと男性の先輩職人が無口で何もしゃべってくれなくて、それもつらかったですね」
Tさん「大きなビルや商業施設の工事現場では、左官屋以外に大勢の人が働いていてびっくりしました。労働環境もまったく経験してないことばかり。職人さんに言われたことをこなすので精一杯。工事現場では力が必要ですが、慣れてくれば重いものでもある程度持てるようになります。」
Mさん「最初の頃はアザができたり、とにかく身体が筋肉痛でした。まあ、それは今もそうですけど。まわりの友人からは手あれでゴツゴツした手に驚かれたこともありました」
━━━Nさんは経験が一年半と言うことですが、見習いの左官屋さんはどんな仕事をするのでしょうか?
Nさん「私は下準備と養生、掃除が主な仕事になります。養生と言うのは、壁に漆喰などを塗る時に柱や枠をよごさないよう、テープを貼っていくんです。例えば漆喰の場合は、塗る厚みが1.5ミリなので、その厚みの分を計算して隙間を空けて養生をしていくのですが、最初の頃、定規で測ってやっていたら怒られました。勘でやっていくのです。左官の仕事は「段取り八分、塗りが二分」といわれていて、こうした下準備がとても大切なんです。それが終わったら、材料を練ったり、職人さんの後ろについて、仕事を見て覚えていきます。壁を塗ることもあるんですが、ドキドキです」

重いものでも慣れてくれば、
不思議と持てるようになるそう。
━━━経験が四年あまりのTさんは、職人さんの一歩手前です。壁塗りはもう手慣れたものですか?
Tさん「まだまだ修行中です。平らにするのが難しいですね。うまくいったときは楽しいです」

力強く壁を塗るTさんの手
━━━左官屋さんの魅力についてお聞かせください
Nさん「私はものづくりが大好きなんです。たとえば家を作るときには大工さんや塗装屋、配管屋などいろいろな人がかかわりますよね。そうやって現場の人たちと何かを作り上げていく。それがきれいにできると、とても嬉しい気持ちになるんです」
Tさん「私も同じで、たくさんの職人さんの手によって何もなかったところに少しづつ形ができていく。それが目に見えてわかるのが楽しいです」
Mさん「前職の編集も左官も、ものを作ることでは同じ。内容はかなり違いますけど。やはり作ることがすきなんだな、と思いますね」
━━━五年以上のキャリアを持つMさん。これまでの経験から、左官の仕事で何が大切だと思いますか?
Mさん「この左官の仕事は、入る現場によって仕事が異なってきます。なので積む経験も人それぞれで、何年やったからこの技術を身につけられるというものではないんです。それでもこの仕事では、やはり掃除と養生が最も重要だと思います。道具の準備ただ揃えるのではなく、先を読んだ準備をします。例えば、現場が暗いと思ったら、照明も準備していくというような。とくに初めの頃は、現場での動き方や段取りを覚えないと、効率的な動きが出来ないんです。」

「顔写真はちょっと・・・」というMさん。
後ろから壁を塗るショットで。
「左官屋はチームを組んで動くので、年配の職人さんと組めば一番下っ端になりますし、若い人と組めば、頭となって現場監督と段取りを決めたりしなければなりません。自分がどのように動けば仕事全体がやりやすくなるかを考えて動くことが大切です。そういう習慣を見習いのうちから身につけることが後で役に立ちます」
━━━これからの目標があればお聞かせください
Mさん「初心を忘れず、今は毎日を頑張りたいです」
Tさん「思うように出来ない事が多く、焦ったりしますが、自分でやりたいと思ってはじめたことだから、もっと努力したい」
Nさん「4年間は頑張って、職人として認められたいです。その先は、ただ職人さんの道を追及することでなく、美大で身につけた自分なりの感性を活かしていきたい。それが、やはり左官の道なのか、どんな方向になるのか、これからが楽しみです」

左官屋さんの道具を見せてもらいました。
「左官は水商売」と言われるほど、水加減が大切なのだそう。原田左官工業所社長の原田さんは、左官とは「平らに塗る技術」と言う。材料の水加減、乾き具合によって壁は平らになったり、ならなかったりする。そこに奥深いものがあるのでしょう。
原田社長は「本当に一人前になるには10年くらいは必要。でもモルタルやガラスビーズなど左官材料も増えてきているので、これらを扱うことを考えれば、やはり一生の仕事ですね」と言う。職人に憧れて、原田左官の門を叩く女性は増えてはいるものの、やはり厳しい世界。ただし、女性職人は、女性ならではの視点があり、男性では気づかないところにも目が届くところが大きな魅力。原田社長も、女性職人の活躍に大きな期待を寄せている。
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