左官の新たな可能性:型を使った自由な表現
今回は、空間デザインの可能性を広げる、型を使った左官仕上げについてお伝えします。

左官仕上げの魅力と課題
左官仕上げは、素材の厚みや加工方法によって、多種多様な表情を生み出せます。例えば、鏝で材料を均一に塗った後に櫛目の付いた鏝でひっかくことで枯山水のような模様を描いたり、厚く盛って削ることで家紋を立体的に表現したりすることも可能です。


厚く盛り、削ることで家紋を立体的に表現することも出来ます。

削り方を調整することで、波模様を作る、文字を残すことも出来ます。

このように鏝の動かし方と盛り方、足し方、削り方によって実に様々な模様を創り出すことが出来ます。
しかし、熟練の職人が鏝(こて)を使い、手作業で複雑な造形を行うには、どうしても時間とコストがかかってしまうというのが現実です。

型を使用することで課題を解決
そこでご提案したいのが、型を使った左官仕上げという選択肢です。
その1:型押し左官仕上げ
これが型を使った左官仕上げの一例。
押し型です。
これはクリアの板の上に厚みの付いた筋が付いていて、押すことで模様を転写できるようになっています。
材料を柔らかいうちに型を張り付け、押して模様を転写させます。
これを使うことで、左官で仕上げると時間がかかるような細かい模様も壁の中に表すことが出来ます。
型のシートの大きさが限られているため、大面積の場合は、ジョイントが出てしまうというデメリットがありますが、シートをまたがせるなどでジョイントをぼかす方法を現在考案中です。
この工法の今後の発展に是非ご期待ください。
その2:厚盛りプリント型の使用
こちらはプリントを部分的に厚盛りにして、左官型として使用する方法です。
厚盛りプリントの型です。
厚く盛れる特殊なプリンタを使用し、立体的にプリントします。
プリントをかける回数を変更することで0.1mm程度の薄さから最大1.8mm程度の厚みまで型の厚みの差を作ることが出来ます。
画像ではわかりにくいですが、この型も円の中心に向かうほど、厚みが増しています。
型のジョイントが目立たなくなるように、つなぎ目をまっすぐではなく、模様の形状に合わせて、シートを作成していただきました。
この型を使って試験施工をしました。
材料は当社オリジナル仕上げ「ポリーブル」です。
塗り付けた上に厚盛りプリントの型を貼り付けます。
離形しやすいように型にはオイル系の離形材を塗りました。
それを材料が柔らかいうちに張り付けていきます。
エアーを抜くためにローラーで押し込みます。
試験施工の様子がYouTubeにアップされています。
張り込んだ状態がこちら。
型を剥がした状態がこちら。
その後
表面加工した状態がこちらです。
黒系の色ということもあり、燻しの焼き物のような渋い表情になりました。
厚盛プリントの型の厚みの差が仕上がり面では逆転して中心に行くほど深くなっています。
それが均一な厚みの型とは違う面白い表情として出ています。
型を用いることで、これまで手間と時間を要した複雑な形状も、比較的容易に実現できます。
空間デザインにおいて、左官仕上げの新たな表現方法として、ぜひご検討いただければと思います。
型製作協力:株式会社 ヤマテ・サイン
https://www.yamate-sign.jp/
この記事を書いた人
有限会社原田左官工業所代表の原田。
二級施工管理技士/左官基幹技能者/タイル検定二級。
(一社)日本左官業組合連合会監事及び青年部の副部長。
左官の講習会やワークショップを企画・開催し、左官の啓蒙活動を行っている。
建設業界のダイバーシティを推進し、女性の左官業界への参加の手助けや新しい人材の採用育成に力を入れている。
著書に「新たなプロの育て方」㈱クロスメディアマーケティング
「世界で一番やさしい左官」㈱エクスナレッジ