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左官のミライ通信

左官職人を増やし業界の活性化につなげるために|原田左官が取り組んでいること

投稿日:2025年08月12日 (火)
壁を見る左官職人

左官職人と聞くと、多くの方は「厳しい修行が必要」、「一人前になるまで時間がかかりそう」といったイメージを抱くのではないでしょうか。
建設業界では深刻な人手不足や職人の高齢化が進んでおり、左官業界も上記のようなネガティブなイメージが根強いため人手不足の傾向が顕著です。
このような課題の多い中で、左官職人を増やし業界全体を盛り上げていくためには、どういった対策が求められるのでしょうか。

【目次】

  • 左官職人を取り巻く現状
    •  職人の減少と高齢化
    •  需要の変化
  • 左官職人が減少している背景
    •  労働環境が過酷という印象
    •  若者との価値観の乖離
    •  情報発信の不足で魅力が伝わりづらい
  • 左官職人を増やすために求められること
    •  労働環境の改善
    •  若手育成と教育改革
    •  左官技術の魅力を発信
    •  人材確保の方法を広げる
  • 原田左官の取り組み
    •  産休・育休・有給休暇の取得を推奨
    •  働き方の安定を図る
    •  会社の中で左官の業務を行う
    •  見習い期間終了を盛大にお祝いする
    •  クリスマスケーキの配布
    •  外部研修への参加
    •  技能大会出場をバックアップ
    •  社内デザインコンテストを開催
    •  社内イベントの開催
    •  海外研修
    •  小中学校の企業訪問受け入れ・一般の方の左官体験
    •  WEBサイト・SNSによる広報活動
  • まとめ

左官職人を取り巻く現状

(写真ACより)

左官業界全体を見ると決してポジティブな状況とはいえず、将来性に不安を抱く方も少なくありません。
そこで、まずは左官職人を取り巻く現状がどのようになっているのか、厳しい状況にある要因についても解説します。

職人の減少と高齢化

国土交通省が公表している「建設工業施行統計調査報告」によると、左官職人の数はピーク時の1975年と比較して10分の1まで減少していることが分かっています。
また、少子化の影響もあり若い職人の数も減少しており、その結果として職人の高齢化も進んでいます。
左官職人は現場で経験を積みながら成長していくのが一般的であり、熟練の職人から若手へと技術の継承が行われてきました。しかし、このままの状況が続くと、現在活躍している高齢の左官職人が引退した後、技術の継承が途絶えてしまう可能性もあります。

需要の変化

わずか50年ほどで、なぜここまで左官職人は減少したのでしょうか。
かつての日本の住宅は漆喰や砂壁の家屋が多く、住宅の建築にあたって左官職人はなくてはならない存在でした。壁と言えば左官で塗って作る「塗り壁」が当たり前でした。
しかし、時代とともにコストの圧縮や工期の短縮が重視されるようになり、手作業による塗り壁よりも簡易的に施工できる「塗り壁風クロス」などの需要が高まってきました。
その結果、塗り壁の需要は低下していき、左官職人が活躍できる現場も限られるようになったのです。

左官職人が減少している背景

手鍬で左官材料を混ぜている

左官職人が減少している背景には、業界全体の需要の変化以外にもさまざまな要因が考えられます。

労働環境が過酷という印象

左官業は身体を動かす肉体労働であり、屋外での作業や長時間労働が多いことから、労働環境が過酷だというイメージが広がっています。
特に、昨今は過酷な猛暑が続いており、屋外の作業は熱中症のリスクがつきまとうほか、冬場は極寒の屋外で作業を強いられます。このような過酷な労働環境は、若い世代にとって魅力に欠けると感じられる原因となっています。

若者との価値観の乖離

現代の若者にとって、現場で失敗を繰り返しながら技術を学ぶという左官業にありがちな伝統的な育成方法は、時に「古臭い」または「効率が悪い」と見られがちです。
さらに、若者の多くが自己成長や働き方の柔軟性を重視する中で、努力と根気が求められる左官業は敬遠されやすい傾向があります。

魅力が伝わりづらい

アナログ的な作業が中心の左官業界は、デジタル化やDXとは縁遠いこともあり、SNSやインターネットを活用した情報発信が十分でないことも大きな要因として考えられます。
若年層の多くはテレビや新聞といった旧来型のメディアよりも、WebサイトやSNSといったインターネットから情報を得るケースが少なくありません。
そのため、インターネットを活用し十分な情報発信ができていないと、左官職人の技術や伝統、やりがいが若い世代に届かず、新たな人材が業界に興味を持つきっかけを失っていると考えられます。

左官職人を増やすために求められること

塗り壁トレーニング

左官職人の減少という厳しい現状を打破するために、業界全体でどういった対策が求められるのでしょうか。

労働環境の改善

左官業の魅力を若い世代に伝えるためには、業界全体で労働環境の改善に取り組んでいくことが重要です。
たとえば、長時間労働の是正や休暇制度の充実、福利厚生の充実などが代表的な対策といえるでしょう。また、過酷な環境下でも快適に仕事ができるよう、作業負担を軽減するための最新機器や技術の導入なども重要な要素です。

若手育成と教育改革

従来の左官業界では、先輩の職人と現場に出て、作業を見て学びながら徐々に一人前になっていくという育成方法が一般的でした。
しかし、このような方法では育成に多くの時間を要し決して効率的とはいえず、新人の職人にとってもモチベーションの維持が難しいものです。
そこで、まずは現場に出る前に基礎的な技術を教えるなど、スムーズに技術を習得できる仕組みを構築することが必要です。
また、分からないことがあれば気軽に質問や相談ができるような、先輩職人とのコミュニケーションを円滑にする取り組みも効果的です。

左官技術の魅力を発信

左官の技術や魅力を社会に広めるために、WebサイトやSNSを活用した情報発信も重要な手段となります。
たとえば、作業風景を動画や写真に収めることで、一連の作業の過程や完成品の美しさをアピールでき、左官業の価値が伝わりやすくなります。
また、左官技術の魅力を体験できるワークショップの開催なども人材確保の有効な手段となり得るでしょう。

人材確保の方法を広げる

新たな人材を採用したいと考えているものの、ハローワークに求人票を出してもなかなか候補者が集まらないといった悩みを抱える経営者も多いのではないでしょうか。
左官業界に興味を持つ人材を増やすには、人材確保の方法を多様化することも重要です。
たとえば、ハローワーク以外にも職業紹介フェアやリクルートイベントへの参加、業界専用の求人サイトの活用などが挙げられます。
また、近年ではSNS採用やリファラル採用(社員の友人や知人を候補者として紹介してもらう方法)、ダイレクトリクルーティング(自社が求める人材をリサーチし直接アプローチする方法)といった新たな採用手法もあるため、これらを活用することで幅広い層から人材を確保しやすくなります。

原田左官の取り組み

左官職人と左官見習いさんが会話をしている

左官職人を増やすためには、上記で紹介した具体的な対策を参考にしながら、自社でできることから始めていく必要があります。
原田左官工業所で実際に行っている左官職人を増やすための取り組みをご紹介しましょう。

産休・育休・有給休暇の取得を推奨

原田左官工業所では有給休暇や育児休暇制度が充実しています。
また、制度を整えて終わりではなく、休暇の取得も推奨しており、有給休暇取得率は89%と高い水準を実現しています。
現場が一区切りつくまでは働き、ひと段落ついたら有給休暇を取得して休むというメリハリがついた働き方が出来るのは左官職人の働き方の良い点の一つです。

仕事と育児の両立の支援(産休・育児休暇制度等の支援)について

当社の取り組みを外部のWEB記事や社内ブログより取り組みをご覧ください。

女性の産休・育休・仕事復帰について東京都の女性しごと応援ナビの記事

女性左官職人の産休・育休・仕事復帰についてのインタビュー中の左官職人さん

https://w-job-ouennavi.metro.tokyo.lg.jp/work/work-6438

男性の育児休業についての取り組み

原田左官工業所の「仕事と育児の両立支援制度概要」チラシ

https://www.haradasakan.co.jp/18398/

労働環境改善についての原田左官の取り組みの例

作業負担軽減のため、攪拌時の粉塵を吸わないよう集塵装置を用意しています。

バケツに入れた左官材を撹拌機で混ぜている。バケツに集塵装置付き掃除機が取り付けてある
(撹拌機を入れるバケツに集塵装置が付き、掃除機につながっているため、攪拌時にセメントの粉塵が舞いにくい)

現場の環境は当社だけでは改善できない部分もありますが、左官・タイル張り作業を少しでもやりやすく取り組めるよう、会社でサポートしています。

働き方の安定を図る

現場で働く左官職人はメリハリがついた働き方が出来るとお伝えしましたが、かつて、建築現場で働く左官業を含む職人の多くは、現場の仕事が無ければ休みになったり、天候の都合で休みになるなど不安定な働き方が一般的でした。
業界全体の就労環境が見直された結果、現在ではそういったことは少なくなりましたが、原田左官工業所ではさらなる働き方の安定を図れるようさまざまな取り組みを行っています。

会社の中で左官の業務を行う

働き方の安定化を図るための具体的な取り組みとして、社内で行える左官業務に積極的に取り組んでいます。
通常、左官の仕事といえば現場まで通う必要があり、到着時間や作業時間の制約があります。また、上記でもご紹介した通り、現場からの依頼がなければ仕事も不安定になりがちです。天候の都合で休みになってしまうケースも過去ありました。
そこで、原田左官工業所では優れた職人の技術を活かし、家具やディスプレイ台などに左官を施工する仕事に積極的に取り組んでいます。
家具やディスプレイ台の施工は当社の倉庫に施工するものを送っていただき、当社の倉庫内で作業することが出来るので、制約なく、天候も気にせず安定して働くことが出来ます。

倉庫内にて家具やディスプレイ台の左官施工
倉庫内にて家具やディスプレイ台の左官施工
倉庫内にて家具やディスプレイ台の左官施工

家具製作以外にも左官の仕上がり見本を作成するなど、倉庫での左官作業が原田左官では数多くあります。

左官見本板(左官サンプル板)の作成
左官サンプルを手に打ち合わせをする左官職人さん2人

そのため、たとえば「今日は午前中しか働けない」、「今日は必ず◯時までには上がりたい」といった要望に応えることもできます。

見習い期間終了を盛大にお祝いする

原田左官工業所では未経験からの入社の場合、はじめの4年間を見習い期間と定めており、これを終了すると初めて「職人」と呼ばれるようになります。
そして、晴れて職人となった従業員に対しては「年明け披露会(ねんあけひろうかい)」を開催し会社全体で盛大にお祝いをします。
職人と呼ばれるようになっても覚えることは数多くあり、そこからも腕を磨き続けていくことは重要です。
しかし、4年間をひとつの区切りとして会社メンバー全員でお祝いすることで、モチベーションの向上はもちろんのこと社員同士の親睦も深まり働きやすい職場となります。
なお、原田左官工業所にはタイルの研究開発や工事管理、倉庫管理といった業務もあるため、現場一本ではない柔軟な働き方も可能です。

年明け披露会(ねんあけひろうかい)についての紹介記事

2024年度年明け披露会について
https://www.haradasakan.co.jp/magazine/magazine0724/

見習いから職人になる日 年明け披露会
https://www.haradasakan.co.jp/8557/

職人の年季明け制度
https://www.haradasakan.co.jp/magazine/mgazine201504/

年明け披露会の様子
年明け披露会にて左官職人となった従業員2名

クリスマスケーキの配布

原田左官工業所では、福利厚生の一環としてユニークな取り組みもあります。お子様のいる家庭にはクリスマス時期にケーキをプレゼントしています。

https://www.haradasakan.co.jp/10261/

外部研修への参加

左官のスキルを磨くためには現場で経験を積み重ねることも大切ですが、外部の団体や企業が行っている研修会に参加することで最新の技術やノウハウが身につきます。
原田左官工業所では外部研修の情報を従業員に共有するなどして積極的に参加を支援しています。

外部講習会参加についての紹介記事

左官を考える会の講習会に参加
https://www.haradasakan.co.jp/1945/

その他の国内外部研修についてはこちらのページの国内研修をご覧ください。
https://www.haradasakan.co.jp/recruit/kenshu/

社内デザインコンテストを開催

左官職人の基本的な仕事は、決まったデザインを顧客の要望通りに仕上げることです。
しかし、日々左官業務に従事していると「たまには自分でデザインしたものを形にしたい」、「デザイン力も身につけたい」という気持ちを抱くこともあります。
そこで、原田左官工業所では社内デザインコンテストを開催し、従業員の多くの票を集めたデザインをTシャツやパーカーとして制作しています。
採用されたデザインの制作者には賞金が進呈されるほか、Tシャツやパーカーは社外にも配布しており非常に好評です。

社内デザインコンテストの紹介記事

Tシャツデザインコンテスト開催
https://www.haradasakan.co.jp/17992/

パーカーデザインコンテスト開催
https://www.haradasakan.co.jp/18721/

社内イベントの開催

社内イベントを実施することで社員同士の親睦が深まり、働きやすい職場が実現できます。
原田左官工業所では、希望者を募ってバーベキューやボウリング大会などの社内イベントを定期的に開催しており、従業員本人はもちろんのこと家族の参加も可能です。

社内イベント紹介記事

社内イベントのBBQの様子

社内BBQのブログ
https://www.haradasakan.co.jp/17426/

社内ボウリング大会のブログ
https://www.haradasakan.co.jp/17632/

技能大会出場をバックアップ

左官やタイル貼りの技術力向上を目的として、さまざまな団体が技能を競う大会を開催しています。
原田左官工業所では、技能大会への出場を目指す従業員に対し、練習場所や材料を無償で提供しています。また、社内のベテラン職人や、社外から過去の技能大会出場者を招いて練習のサポートも行っています。
このような充実したバックアップ体制により、中央職業能力開発協会が開催する技能を競う全国大会「技能グランプリ」において、2024年のタイル貼り競技で金メダルを獲得することができました。

2024年のタイル貼り競技で金メダルを獲得した左官職人(タイル職人)

技能大会バックアップの紹介記事

技能グランプリ:タイル張り部門金賞の根来さんの紹介記事
https://www.haradasakan.co.jp/recruit/interview/

未来の職人育成プロジェクト 技能五輪全国大会出場をバックアップ
https://www.haradasakan.co.jp/12637/
https://www.haradasakan.co.jp/11547/

海外研修

左官技術は日本だけでなく海外にも昔から存在するものです。特にヨーロッパを中心にさまざまな素材や技術が発展しています。
原田左官工業所では海外研修にも力を入れており、過去にはドイツやイタリアの素材メーカーで最新の仕上げ技術を学んできた実績もあります。

海外研修の様子
海外研修の様子

研修についてはこちらのサイトの海外研修をご覧ください。
https://www.haradasakan.co.jp/recruit/kenshu/

小中学校の企業訪問受け入れ・一般の方の左官体験

少子化が進む中で左官業界を盛り上げていくためには、少しでも多くの学生・生徒さんに左官に興味をもってもらうことが大切です。
原田左官工業所では、小中学校が行っている社会科見学や企業訪問などを積極的に受け入れ、左官職人の働き方や作業内容を丁寧に説明したり、塗り壁体験なども行っています。
また、一般の方を対象とした左官体験の教室も不定期で開催しており、実習で制作した漆喰パネルを記念品としてプレゼントしています。

左官体験コースにて塗り壁体験をする一般の方々
左官体験コースで制作した記念品の漆喰パネル

地域の小学校で訪問授業をしました
https://www.haradasakan.co.jp/18830/

仙台の中学校 修学旅行で左官体験
https://www.haradasakan.co.jp/5877/

中学生が左官体験
https://www.haradasakan.co.jp/3972/

漆喰・左官体験 プロから学ぶ左官の技
https://www.haradasakan.co.jp/12451/

WEBサイト・SNSによる広報活動

原田左官では上記のような左官職人を目指す人の育成・定着の取り組みをしています。左官職人を増やしていくという取り組みは自社の仕事を施工できるようにというだけでなく、微力ながら左官業界の活性化にもつながると考えています。
その考えはWEBサイト・SNSによる広報活動にもつながっています。
原田左官ではWEBサイトやSNSを活用して左官の情報を広く伝えることを心がけています。左官の面白さや興味深い点、職人さんがこだわっているポイントなどを伝えて、左官を身近なものに感じていただけるよう努力しています。自社の施工例やサンプル見本・施工方法などもアップしており、左官が出来ることの奥深さや可能性を知っていただくきっかけを作っています。自社の情報をWEBやSNSにアップすることは外部へ情報が流出してしまうという考え方もあるかと思いますが、それ以上に左官の可能性を広く知っていただくメリットを感じており、業界の活性化に繋げるためにコツコツとPR活動を行なっています。
WEBサイトやSNSをきっかけに入社し、左官職人となった先輩たちも多数います。
原田左官の情報発信に今後も是非興味を持っていただければと思います。

SNS紹介
Instagram
https://www.instagram.com/haradasakantokyo/

X(旧Twitter)
https://x.com/haradasakan

Pinterest
https://jp.pinterest.com/haradasakan/

まとめ

少子高齢化に伴い多くの業界で人手不足が続いており、特に建設業界はその傾向が顕著です。
また、左官業界に限ってみると、建築技術の発展により効率的な工法が登場したこともあり、ピーク時に比べると左官職人の需要は大幅に減少しています。
しかし、左官職人が活躍できる場は依然として多く、特に質感やデザインにこだわった住宅をつくる際には不可欠な存在です。
かつて職人の世界といえば過酷な環境下で厳しい修行に耐えて成長するものというイメージがありましたが、昨今では労働環境の改善も進んでいます。
原田左官工業所では、左官経験の有無を問わず積極的に採用しているため、左官の仕事に少しでも興味がある、手に職をつけたいとお考えの方は、ぜひ気軽にお問い合わせください。

採用についてのお問い合わせはこちらから
https://www.haradasakan.co.jp/recruit/recruit_form/

 


この記事を書いた人
原田宗亮

有限会社原田左官工業所代表の原田。
二級施工管理技士/左官基幹技能者/タイル検定二級。
(一社)日本左官業組合連合会監事及び青年部の副部長。
左官の講習会やワークショップを企画・開催し、左官の啓蒙活動を行っている。
建設業界のダイバーシティを推進し、女性の左官業界への参加の手助けや新しい人材の採用育成に力を入れている。
著書に「新たなプロの育て方」㈱クロスメディアマーケティング
「世界で一番やさしい左官」㈱エクスナレッジ

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